Pさんの保釈を求める憲法研究者声明 

 

私たちは、憲法研究者として、現在、大阪拘置所に被告人勾留されているPさんを保釈 することを大阪地方裁判所に求めます。以下、その理由を述べます。

 

Pさんは、20121113日に「震災ガレキ」の受け入れに関する大阪市の説明会の会場であった大阪市立此花区民センターに行き、そこで建造物侵入(刑法130条)の容疑で現行犯逮捕され、同年124日に威力業務妨害罪(刑法234条)で起訴され、その後現在まで長期にわたり被告人勾留されています。

 

Pさんは、現行犯逮捕されており、起訴の時点までに捜査機関の証拠収集等は概ねなされているものと思われ、さらに2013125日の勾留理由開示公判の際には、此花区民センターにおける自らの行動を堂々と説明している以上、そもそも何ら勾留する理由はないものと私たちは考えます。

 

以上の理由に加えて、私たちが、Pさんの保釈を求める最大の理由は、彼女に対する逮捕留置、被疑者勾留および被告人勾留の全期間を通じて、大阪府警布施署および大阪拘置所が彼女に対して必要とされる医療を施さないことにあります。

 

このような措置は、憲法で保障されている生命や身体の健康に対する個人の権利(日本国憲法13条)を侵害するものであり、捜査機関や検察による取調べがこのような状況において実施されることは、日本国憲法36条が「絶対に」禁止している「拷問」に該当する疑いが極めて強いものです。

 

したがって、このような違法な措置が継続されることは、憲法研究者として到底見過ごすことはできません。

 

憲法36条の「拷問」とは、被疑者ないし被告人に不必要な肉体的・生理的・精神的苦痛を与えることです。Pさんの弁護人および支援者らから私たちが得た情報によると、Pさんは、20121113日に逮捕されて以降今日に至るまで留置所でも拘置所でも、適切な医療を受けられない状態が続いています。大阪拘置所へ移管された際には、薬を一切与えられない状態が数日間続き、Pさんは、固形物が全く喉を通らない状態にまで症状が悪化しました。

 

その結果、現在、弁護人の依頼により接見した専門医の「意見書」によると、不必要な長期勾留および不十分な医療の結果、持病の症状が非常に悪化させており、このまま勾留されつづけること自体がPさんに「悲惨な苦しい状況を強制し」、持病のさらなる「症状悪化をきたす」ものであって、医学上も許されないとのことです。

 

そもそもPさんは、大阪府警布施署における逮捕留置および被疑者勾留の段階から、逮捕以前からの主治医から処方されていたものと同じ薬の処方を繰り返し求めていましたが、それがなされない状態で取調べを受けていました。また、Pさんや弁護人からの度重なる要請により、ようやく処方された薬についても、何の説明もないままに、種類や分量が変更されました。

 

持病のある者に対して、必要な薬を与えず、身体的にも精神的にも苦痛状態に置いたまま、取調べをすることが許されるのであれば、捜査機関にとって「自白」を得ることは実に簡単です。苦痛状態から逃れ、適切な薬を得たいために被疑者が捜査機関の誘導通りにウソの自白をしてしまう可能性は非常に高いと考えられます。

 

また捜査機関が、自白を得るために被疑者にあえて適切な薬を与えず苦痛状態においておくことも可能です。

 

「拷問」によって得られた自白の証拠能力を否定している憲法382項の精神に照らしても、逮捕留置および被疑者勾留の段階で持病のある者に適切な投薬をしないということは絶対に許してはなりません。

 

また、刑法1952項(特別公務員暴行陵辱罪)では、被疑者・被告人の拘禁という特別な職務を担う公務員の職権行使における犯罪行為として、被拘禁者に対する暴行、陵辱、加虐行為が定められています。

 

上記のとおり、大阪府警布施署および大阪拘置所の措置は、Pさんの身体的・精神的な健康を深刻に損ない、個人の尊厳を著しく傷つけるものであり、刑法1952項の定める犯罪に該当する可能性が高いと言えます。

 

したがって、Pさんの保釈を裁判所が認めないことは、公権力による違法行為を黙認することにもなりかねません。

 

Pさんは、以上の通り、憲法上絶対に許されない「拷問」を受け、身体的・精神的に極めて深刻な損害を被っており、憲法研究者として許しがたいものです。

 

また、彼女に「悲惨な苦しい状況を強制」しつづけるならば、彼女が公判で自らの主張を尽くすための健康状態が著しく損なわれ、公判の公平性すら傷つけかねません。

 

以上の理由から、私たちは、Pさんを保釈することを強く求めます。

 

2013219

石川裕一郎(聖学院大学政治経済学部准教授)

石埼学(龍谷大学法科大学院教授)

岡田 健一郎(高知大学人文学部専任講師)

笹沼弘志(静岡大学人文学部教授)

中川律(宮崎大学教育文化学部専任講師)

成澤孝人(信州大学法科大学院教授)

JR大阪駅前広場での宣伝活動に関する起訴の

取消しを求める法研究者声

1声明の趣旨

 

 私たちは、20121217日発表の「JR大阪駅頭における宣伝活動に対する威力業務妨害罪等の適用に抗議する憲法研究者声明」の呼びかけ人等です。

 

 その後、1228日、大阪地検は、逮捕された3名のうち2名を「処分保留」とし釈放しました。しかし私たちは、1名(H氏)を威力業務妨害罪(刑法234条)で起訴したことについて納得ができません。そこで再度声明を発表し、大阪地検に対して起訴の取消し(刑事訴訟法257条)を求めます。

 

H氏の公訴事実について

 

 H氏は、20121017日の午後3時ころより約1時間程度の間、JR大阪駅前の「東広場」において、H氏を含む約40名の市民が震災瓦礫処理に関連する宣伝活動を行った際に、公道との境のないJR大阪駅の敷地内に立ち入り、ビラを無許可で配布したことなどを駅係員に制止されたことに対して、大声で抗議し、駅係員の足を踏んだとされています。このようなH氏の行動が、駅係員の警備活動という業務を妨害した威力業務妨害罪に当たるとされて、起訴が行われました。

 

 私たちは、たとえH氏が行ったとされていることを前提にしたとしても、それらは決して威力業務妨害罪を成立させる行為ではなく、大阪地検は、起訴を取消すべきだと考えます。その理由を以下で述べます。

 

H氏の言動がなされた場所について

 

 H氏を含む約40名の市民が宣伝活動をした場所は、JR大阪駅御堂筋コンコース北口のガラス製の扉の外および同中央コンコース東口のガラス製の扉の外にある広場です。現場にある「大阪ターミナルビル(株)」名義の「ご注意」との掲示には「東広場」と書かれています。確かにこの掲示には、禁止事項として「許可を受けず集会、演奏活動等を行うこと」、「許可を受けずポスター、ビラ等を掲示・配布・貼付等すること」が明記されています。しかし、柵等の何らの境界もなくこの「東広場」に隣接する公道では、日頃から演奏活動等がなされ、「東広場」内に数十名の聴衆が集まることも稀ではありません。

 

H氏の言動は威力業務妨害罪に該当しない。

 

 以上の現場の特性を踏まえると、禁止事項が明示されていたということのみで、JR大阪駅係員に、宣伝活動等を禁ずる正当な権限があったとは考えられません。したがって、JR大阪駅やそれと不可分の商業施設の利用者等の交通を著しく妨げる態様であった等の特段の事情のない限り、そもそも駅係員の制止等は法令に基づく正当な業務ではないと考えられます。日頃からなされている演奏活動等については何ら問題視せず、H氏らの宣伝活動のみを殊更に問題視していることからは、H氏らの宣伝活動の態様ではなく内容を問題視したとの疑問が払拭できません。

 

 一応、駅係員の業務の根拠となりうる法律がふたつあります。ひとつは鉄道営業法です。同法42条は、同法35条で「鉄道係員ノ許諾」を得ないで「鉄道地」内でなすことを禁止された行為(寄付の要請、物品販売、物品配布、演説勧誘行為等)をなした者を「鉄道地外ニ退去」させる権限を鉄道係員に付与しています。しかし、「鉄道地」とは、最高裁の判例によれば「鉄道の営業主体が所有又は管理する用地・地域のうち、直接鉄道運送業務に使用されるもの及びこれと密接不可分の利用関係にあるもの」(昭和591218日判決)です。この判例に照らしてJR大阪駅「東広場」は「鉄道地」ではないと評価できますので、駅係員に鉄道営業法42条に基づく退去要請の権限があったとは考えられません。ふたつ目は、刑法130条に基づくJR大阪駅の管理権者の施設の管理権の行使です。しかしこの管理権を行使できる場所は「人の看守する」「建造物」であり、「東広場」は上部に屋根があるので仮に建造物の一部であったとしても「看守」していたとは評価できません。JR大阪駅の北東角の部分で「看守」していたと評価できるのは、先に述べたコンコースの内外を仕切るガラス製の扉の内側です。また日頃から演奏活動等が隣接する公道でなされ、数十名の聴衆が集まることがあったにもかかわらず、そうした表現活動にはJR大阪駅は何ら管理権を行使していないことからも「看守」していなかったと考えられます。

 

 次にH氏の駅係員に対する抗議ですが、対応した駅係員においては、犯罪と思料するのであれば警察官を呼ぶ、私人逮捕する、宣伝活動の責任者と話し合う等、いくつもの選択肢があったのであって、その自由意思を制圧されたともそのおそれが実質的にあったとも評価しえません。したがって、H氏の言動が刑法234条の「威力」に該当するとは到底評価し得ません。

 

5パブリック・フォーラムである

 

 「東広場」は、かりに鉄道営業法のいう「鉄道地」あるいは刑法130条のいう「人の看守する」「建造物」に該当するとしても、前述の通りの特徴を有し、公共性が極めて高い場所です。すなわち、「東広場」は、鉄道会社という民間会社の所有地あるいは管理地であったとしても、JR大阪駅だけではなく、隣接する各種の商業施設、大阪市営地下鉄等の利用者も自由に通行すべき場として公道に準じる場所であり、従前から表現活動の場として利用されてきた経緯を考えると、「パブリック・フォーラム」であると評価できるのです。このような公共性の強い場所においては、かりにJR大阪駅の管理権等の及ぶ場所であっても、憲法211項の保障する表現の自由を優先させるべきです。このような場所でなされた宣伝活動に対する駅係員の制止等にH氏が抗議したのは憲法の観点からは全く正当と評価できます。かりに威力業務妨害罪の構成要件を充たしていたとしても、正当な宣伝活動に対する駅係員による急迫不正な侵害から自己や宣伝活動に参加していた他の者の権利を防衛するためにやむを得ずした「正当防衛」(刑法36条)であり、犯罪として成立するもので

はありません。

 

 H氏らのした宣伝活動は、パブリック・フォーラムにおける正当な表現活動であり、それに対する不当な制止に対して正当な抗議をしたH氏の行為を問題視して起訴し、同氏に応訴を強いるのは、表現の自由に対してあまりに過酷な負担を強いるものです。このような起訴が許されるのであれば、多くの市民は、委縮し、正当な表現行為を差し控えることになってしまうでしょう。したがって私たちは、憲法研究者として今回のH氏の起訴を許容できないと言わざるを得ません。以上の理由から、私たちは、大阪地検に対し、本件の起訴を取消すことを強く要望します。

 

2013121

 

石川裕一郎(聖学院大学政治経済学部准教授)、石埼学(龍谷大学法科大学院教授)、岡田健一郎(高知大学人文学部専任講師)、笹沼弘志(静岡大学人文学部教授)、中川律(宮崎大学教育文化学部専任講師)、成澤孝人(信州大学法科大学院教授)

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JR大阪駅頭における宣伝活動に対する

威力業務妨害罪等の適用に抗議する憲法研究者声明

 

 2012129日、大阪府警警備部などは、同年1017日のJR大阪駅駅頭で「震災瓦礫」の受入に反対する宣伝活動(以下、「本件宣伝活動」とする。)を行った下地真樹氏(阪南大学准教授)らを、威力業務妨害罪(刑法234条)および不退去罪(刑法130条後段)で逮捕しました。私たちは、日本国憲法の研究者として、本件逮捕は、憲法211項の保障する表現の自由を不当に侵害するものであると考えます。

 

 本件宣伝活動は、ハンドマイク等を用いて、駅頭で、大阪市の瓦礫処理に関する自らの政治的見解を通行人に伝えるものであって、憲法上強く保護されるべき表現活動です。また本件宣伝活動が行われた場所が、かりにJR大阪駅構内であったとしても、駅の改札口付近等通行人の妨げになるような場所ではなく、せいぜい同駅の敷地内であるにすぎず、公道との区別も判然としない場所です。このような場所は、伝統的に表現活動の場として用いられてきたパブリック・フォーラムに該当すると考えられ、施設管理者の管理権は、憲法211項の前に、強く制約されるはずです。

 

 そうであるとすると、本件表現活動に対し、威力業務妨害罪や不退去罪を適用することができるのは、当該活動によって相当の害悪が発生している場合でなければなりませんし、たとえそのような解釈をとらないとしても、少なくとも、害悪発生のおそれが実質的に存在することが必要なはずです。本件は、通行する市民に対して、穏健な方法で瓦礫処理に関する自らの政治的主張を訴えかけるものであり、このような表現活動から、刑罰に値するだけの相当の害悪が発生し、または、そのような害悪が発生する実質的なおそれが存在しているとは考えにくいと思われます。

 また、下地氏らは、本件宣伝活動終了後、大阪市役所に行くために、JR大阪駅の東側のコンコースを通過しました。この行為も、同コンコース内で立ち止まって宣伝活動をするといった態様のものではなく、単に、他の人と同様に、移動のためにコンコースを利用したにとどまります。そもそも同コンコースも、駅構内とはいえ、本件宣伝活動が行われた駅頭と同様に公道とほぼ同視できる場所だと考えます。この移動のためのコンコース利用によって威力業務妨害罪ないし不退去罪が成立するとは考えられません。

 

 下地氏らが、大阪市の瓦礫処理問題で活発に活動していたことは周知の通りです。政治的問題は、民主主義によって決着がつけられるべきですが、その前提として、表現の自由が十分に保障されなければなりません。前述のとおり、本件行為に表現の自由の保障が及び、その制約を正当化するだけの実質的な理由が存在しないとすれば、本件逮捕は、下地氏らの政治的主張を狙い撃ちにしたのではないかという懸念を感じざるを得ません。

 

 市民の正当な言論活動に対し、刑罰権が恣意的に発動されるならば、一般市民は萎縮し、政治的な活動を差し控えるようになります。そうなると、民主的な議論の結果も歪められることにならざるをえません。表現の自由は、そのような結果を防止するためにこそ存在するのであり、したがって、刑罰権発動には最大限の慎重さが求められるはずです。

 

以上のように、本件逮捕は、憲法上強く保障された表現の自由を不当に侵害し、市民の表現活動を幅広く規制対象にする結果をもたらし、ひいては自由な意見交換に支えられるべき議会制民主主義の過程を深刻に害するものであって、憲法上許容されないと私たちは考えます。私たちは、大阪府警による下地氏らの逮捕に強く抗議するとともに、かれらの即時釈放を要求します。

 

20121217

 

<呼びかけ人>

石川裕一郎(聖学院大学)、石埼学(龍谷大学)、岡田健一郎(高知大学)、中川律(宮崎大学)、成澤孝人(信州大学)

 

<賛同者>

愛敬浩二(名古屋大学)、青井未帆(学習院大学)、青木宏治(関東学院大学)、足立英郎(大阪電気通信大学)、飯島滋明(名古屋学院大学)、井口秀作(愛媛大学)、井端正幸(沖縄国際大学)、植木淳(北九州市立大学)、植松健一(立命館大学)、植村勝慶(國學院大學)、内野正幸(中央大学)、浦田一郎(明治大学)、浦田賢治(早稲田大学名誉教授)、榎澤幸広(名古屋学院大学)、遠藤比呂通(弁護士)、遠藤美奈(西南学院大学)、大久保史郎(立命館大学)、大野友也(鹿児島大学)、大藤紀子(獨協大学)、奥田喜道(跡見学園女子大学)、小沢隆一(東京慈恵会医科大学)、押久保倫夫(東海大学)、金澤孝(早稲田大学)、上脇博之(神戸学院大学)、木下智史(関西大学)、君島東彦(立命館大学)、小竹聡(拓殖大学)、小松浩(立命館大学)、齊藤笑美子(茨城大学)、斎藤一久(東京学芸大学)、斉藤小百合(恵泉女学園大学)、阪口正二郎(一橋大学)、笹沼弘志(静岡大学)、佐藤潤一(大阪産業大学)、志田陽子(武蔵野美術大学)、菅原真(名古屋市立大学)、高作正博(関西大学)、高橋利安(広島修道大学)、多田一路(立命館大学)、只野雅人(一橋大学)、玉蟲由樹(福岡大学)、塚田哲之(神戸学院大学)、寺川史朗(龍谷大学)、中里見博(徳島大学)、永田秀樹(関西学院大学)、長峯信彦(愛知大学)、永山茂樹(東海大学)、成嶋隆(新潟大学)、丹羽徹(大阪経済法科大学)、福嶋敏明(神戸学院大学)、前原清隆(日本福祉大学)、牧本公明(松山大学)、松原幸恵(山口大学)、水島朝穂(早稲田大学)、三宅裕一郎(三重短期大学)、三輪隆(埼玉大学)、村田尚紀(関西大学)、本秀紀(名古屋大学)、元山健(龍谷大学)、森英樹(名古屋大学名誉教授)、柳井健一(関西学院大学)、山内敏弘(一橋大学名誉教授)、和田進(神戸大学)、渡辺治(一橋大学名誉教授)、渡辺洋(神戸学院大学) 以上、65名。呼びかけ人と合わせて70名。(2012年12月20日現在)

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